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すべてはプロの指示で

お盆開けにようやく許可が下りて、母のいるグループホームを、初めて訪問することになった。入所して2週間あまり。そろそろ落ち着いた様子と連絡があったので。

11時に待ち合わせ。車が込んで遅れ気味の弟たちより先に単独で。母はそこそこ元気そうで、相変わらず「やることがいっぱい」と、落ち着いてゆったりと過せない性格。研修に来ている学生たちに、まかないの世話をするのが忙しいのだそうな。

事実、食器洗いは担当しているらしい。洗ったまま伏せてある茶碗は、拭かずにいられないし、片付けずにいられない。文句をいいながら。

程なく、弟一家が4人揃って来る。顔を見て口々に「元気そうだ」「太ったね」。

確かに、自宅にいた頃よりふっくらして、顔色もいい。三度の食事をきちんと食べて、よく睡眠をとることが、どれほど人間の身体にいい影響を与えるかがわかる。

それを聞いて母もうれしそうだが、本人は今日帰るつもり。あくまで短い合宿から、今日は家族が迎えに来てくれたと思って「勉強になりました」とかいっている。

けっきょく、弟たちの滞在時間は正味1時間。最初は皆で「どうしたものか」と思案していたが、スタッフも心得たもので、食堂で昼食をとっている間に、母の気をそらしながら去るよう指示。順番にパラパラと帰っていく。

残った義妹も、「じゃあ、お母さん、ちょっと行ってきます」とか、スタッフの指示通りに軽く言葉をかけて、どこかで待っている弟の車と落ち合うはず。

最後に残った私は、とりあえず母がご飯を食べ終わるまで待つ。遠目で見ると、いい感じの男性も混じった同世代の5人グループで、歓談しながらゆっくりと食べている。こんなふうにゆったりと幾人かでご飯を食べる時間が、家の中にはなかったな。

食後、スタッフや、ほかの部屋の人たちに、一人ひとりあいさつして回る母の声が、扉の外側から聞こえる。入ってきた母は、私を見て安心するけれど、すぐに、ほかの家族がいないことを問いただす。思わず「今日は帰らない日なんじゃない?」と洩らしたら、もうパニック。とりあえずトイレといって、母が入っている間に、スタッフの一人から諭される。

「説得とかしないでいいですよ。適当で」

そう、無意識に説得しようとしていたかもしれないけど。

スタッフはこう言っていた。弟は「急な手術が入ったんですって」(休診日なんだけど)。お嫁さんは「ちょっと買い物に」。そして孫たちは「夏休み」。

私はといえば、帰れないとうろたえる母に、ゆっくり言葉をかける間もなく、天気がいいので何やら庭先に干したというから、それに付き添うスタッフの後を、すごすごついていく。

1階に下りて、「どこに干したの?」と促されて、母はテラスのほうへと向かう。

その間に、後ろ手で、帰れと指示する彼。シッシッと追われ、あわてて建物を出る。なぜだか身をかがめるみたいにして。

たぶん母は、さっきまで一緒にいた私のことなど、すぐに忘れて、スタッフの彼と一緒に部屋に戻るんだろう。バス停に向かいながら考えた。時計を見ると、私の滞在時間も、わずか2時間半。

かのスタッフは、料理の得意な大柄のでっぷりした青年。今日はセンター長も主任もいなかったので、彼が責任者。弟も義妹も、もちろん母も、彼に全幅の信頼を置いている。優しくて、いいスタッフなんだと思う。だから、私も、彼の指示に従わざるを得ない。

いったい、私はどこへ行くつもりなんだろう。母が彼岸に旅立つまで。

自分にも母にも向き合うこともできず、介護のプロの手に、ただ頼むばかりで。

(おとな愉快団!「チーム三行半」こてちママ)

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